海の底

海の底

海の底

一言。「最高」ただそれだけ。
2年前電撃大賞をとった「塩の街」を読んだときには、正直「銀賞・金賞のほうがおもしろい」と思ったのですが、この作品に関してはもう非の付け所のない面白さでした。
いやはやどこから語ればいいのやら。
突如横須賀に上陸した巨大エビの大群。その中で、潜水艦の中に取り残された若手士官2人と13人の少年少女たち。
主人公?の士官2人がいい神栗コンビっぷり(ってファントム無頼知っている人間なんてほとんどいないだろうけど)を見せているだけで物語として十分成り立っているのですが、子供たちが面白い。
一言に「子供」って言っても、年齢やら性別やら性格やら家庭環境やらいろいろあるわけで。
非日常と立ち向かって、日常と戦って。青春物語として、ある種王道的な展開をみせているのですが、王道だからこそのよさ。
それを十分に堪能させてもらいました。


艦内の青春物語も見所ですが、その外側も見物。
警察が出動して、でも怪獣なんかにマトモに戦えるわけもなく、そこからいかに自衛隊を引っ張り出すか。
このままでは米軍による横須賀空爆が決行されるという状況で、どうやれば自衛隊を出動させられるか。


「これが機動隊への最後の命令となる。死んでこい」


このシーンに思わず涙。会議室の状況が文字から映像へと完全に脳内再生なされます。冒頭でも「映画」という表現を使いましたが、本当に一つ一つの場面が、セリフが、全て映像として映し出されるような文章の素晴らしさがありました。
小川一水なんかもそうだけど、こういう話に弱いです、自分。「大人の事情」に立ち向かう大人たち。その設定だけで弱いのに、それがこの文章力で再現されたらそれこそ自分が死にそうです。


そして、エンディング。悲劇は海の底へ消え去り、新しい出会いは幸福な物語として。
別れのシーンには「これでいいのか夏木?」と思いましたが、それを越えてのラストに感動。「成長」の2文字では片付けられない1週間の出来事と5年という歳月。それを十分に味あわせてくれる、最高の物語の締めに相応しい最高のエンディングでした。


全編を通して心から「読んでよかった」と思える作品でした。
当初、なんでわざわざ文庫ではなくハードカバーの単行本として出すのか疑問に思ってましたが、その思いもどこへやら。
この本の厚さはストーリーの熱さであり、この本の重さはストーリーの重さでした。
読み終えて速攻で「空の中」も購入、そちらももちろんすでに読破したのですが、それはまた次回。